Let's hunt Palynomorphs!! 

~パリノモルフをさがして~

パリノモルフの代表格は植物由来の花粉・胞子ですが,ここでは湖沼や海の堆積物中の「水生」パリノモルフたちを紹介しています。見た目はちょっとグロテスクですが,過去の地球や生態系を知るうえで大事な情報をもっています。

We'd like to introduce you the main groups of "aquatic" palynomorphs  in this page.
Oh, they are gross!  However, in sediment, they maintain information about the past.



Dinocyst

渦鞭毛藻シスト

Ciliate Cyst/Lorica

繊毛虫シスト/ロリカ

Foraminiferal lining

有孔虫ライニング

Prasinophycean phycoma

プラシノ藻ファイコーマ

Resting egg  of Zooplankton

動物プランクトンの休眠卵

Acritarch

アクリターク


渦鞭毛藻シスト 

(Dinocyst)

 渦鞭毛藻シスト(dinocyst)は,海のパリノモルフのなかで最もよく知られています。シスト(cyst)とは,渦鞭毛藻が生きていくなかで,環境悪化時などに形成する固い殻のことで,しばらく眠りにつく様子から休眠胞子(resting cyst/spore)ともよばれています。細かいことをいうと,有性生殖で形成される耐久細胞休眠胞子またはシストとよばれます。一方,無性的な増殖時に形成される耐久細胞は,脱皮細胞(ecdysal cell)薄膜細胞(pelicle cell)一時休眠細胞(temporary resting cell)と別の名前でよばれ,より堆積物中の分解作用に抵抗性が低く(易分解性:labile),休眠期間も短いとされています。また,シストの休眠・発芽方法についても,発芽まで成熟を必要とする内在(自発)的休眠(endogenous dormacy)と環境悪化時に休眠する外的(強制)的休眠(exogenous dormacy)に二分することができます。

 これらの固い殻はほとんどが有機高分子によるものですが,中には炭酸塩で構成されている場合もあります。固い殻で構成されることから,堆積物が岩石化した堆積岩の地層からもみつかります。最も古い化石記録は2億年以上前の三畳紀と一般的には理解されていますが,アクリタークに含まれている渦鞭毛藻シストも含めると最古のものはプレカンブリア時代にまでさかのぼるとも考えられています。渦鞭毛藻には,光合成によって生きる独立栄養の種とエサを食べて生きる従属栄養の種,そしてハイブリット型の混合栄養の種がいます。また,サンゴや有孔虫などと共生する種や他の生物に寄生をする種もいます。

 渦鞭毛藻シストは,色の違いで無色シストと褐色シストに大きく分けることができます。無色シストを形成する種の多くは独立栄養性で,逆に褐色シストを形成する種の多くが従属栄養性です。 

 無色シストセルロースに似た高分子で構成され,褐色シストはより窒素が多いキチンに似た高分子で構成されていると考えられています。 

 渦鞭毛藻シストの分類は複雑ですが,おおざっばに解説すると,まずは発芽口(archeopyle)の有無で渦鞭毛藻シストかを判別し,発芽口の位置と種類,偽鎧板(paraplate/parasture)の配置と構造,突起物(プロセス:process)とシスト径との比率,シスト壁の装飾,プロセスの形状を観察することでシスト種を決定します。現生シスト種の分類に際しては,こちらのサイトが便利ですし,化石種を含めた場合にはこちらを使うとよいでしょう(いずれも英語のページ)。


繊毛虫シスト/ロリカ

(Ciliate cyst/lorica)

 繊毛虫は,渦鞭毛藻と同じアルベオラータに含まれる海洋でもメジャーな原生生物です。小中学校で習うツリガネムシゾウリムシ繊毛虫の仲間です。繊毛虫は水中のいたるところに生息していますが,多くは泥や水草にくっついて生きる付着性です。その一方で,海洋を浮遊するプランクトン種も存在します。海産繊毛虫プランクトンの多くは,有鐘繊毛虫(tintinnid)少毛類(oligotrichs)に分類されます。ややこしいことに,現在の分類ではどちらも少毛亜綱に含まれてしまいます。そのため,従来のように鐘のかたちをした有機質の殻であるロリカ(lorica)があるかないかで区別をし,有鐘繊毛虫を含むコレオトリカ目(Choreotrichida)を除いた少毛亜綱の残りの2目である ハルテリア目(Halteriida)と ストロンビディウム目(Strombidiida)を少毛「類」とよんでいます。  

 ロリカは,有鐘繊毛虫が形成する固い殻です。この固い殻類キチン質高分子で構成されています。沿岸域に生息する種については,その有機質の殻の上に砂粒を付着させている場合もあります。このようにして,ロリカが砂粒などの鉱物を付着させた状態で化石化した有鐘繊毛虫は,カルピオネリド(Calpionellods)として知られ,有鐘繊毛虫プレカンブリア時代から海洋に生息していた証拠とされています。

  一方で,シスト有鐘繊毛虫少毛類も形成することが知られています。有鐘繊毛虫は,ロリカ内シストを形成するので,シスト形成種の推定は難しくありませんが,ロリカをもたない少毛類はシストの状態では種同定が困難です。有鐘繊毛虫少毛類パピュラ(papula)という突出部を持ち,シストにもこの構造は反映されます。そのため,パピュラの有無繊毛虫シストかどうかを判断する重要な情報になります。 


有孔虫ライニング 

(Foraminiferal lining)

 有孔虫はいわずと知れた微化石の代表格であり,同様に殻が微化石として残る放散虫も含まれるリザリアに分類されています。底生種浮遊性種が存在し,主に炭酸カルシウムを主成分とする石灰質(calcareous)の殻を形成しますが,膠着質,ガラス質,珪質の殻を形成する場合もあります。パリノモルフを抽出する場合には,一般的に酸処理を行ないますが,その際にこれらの殻は溶解するため,有機質の内膜のみが解けずに残ることがあります。この有機高分子からなる内膜は,殻室 (チャンバー)ライン状に繋がった状態で観察されることから,有孔虫ライニングとよばれています。

 観察される有孔虫ライニングは,通常の有孔虫分析で対象とする有孔虫の体サイズより小さい小型有孔虫に多くの場合は分類されます(20~150µm)。微化石層序や古環境解析において,小型有孔虫があまり注目されていない背景もあり,多くが底生有孔虫由来であること以外はライニングの起源となる有孔虫種の特定がほとんどなされていません。また,有孔虫の分類には立体的な形態が重要な情報となるため,薄い内膜からなり埋没時の圧密の影響を受けやすい有孔虫ライニングから種同定が困難であるという問題もあります。形態的な特徴から,Single, Uniserial, Biserial, Coiled, Compound などいくつかのグループに分け,さらに大きさや膜の構造から複数のタイプに分類して観察を行なう場合もあります。

  白亜紀など古い地質時代の堆積岩中にも有孔虫ライニングはしばしば観察されるにもかかわらず,そこから得られる情報が少ないという現状にあります。そのため,小型有孔虫の分布や生態に関する情報を整理することで,有孔虫ライニングの指標性が高まることが期待されています。 


プラシノ藻ファイコーマ

(Prasinophycean phycoma)

 プラシノ藻は,かつて綱(class)として一括りにされてきましたが,近年になって単系統でないことが分かってきた緑藻植物門(Chlorophyta)に含まれる藻類の総称です。多くは外洋性ですが一部は沿岸にも生息しています。プラシノ藻HalosphaeraPterospermaは,遊泳期には小型で単細胞の形態をとりますが,生活環のなかで非運動性の細胞に変化し,容積を増大する過程で外縁部につば状の突起物(フランジ)を形成します。この細胞をファイコーマ(phycoma)もしくは不動細胞とよんでいます。ファイコーマの内部で数回の細胞分裂が行なわることで形成された栄養細胞は,最終的に膜外に放出されます。この際に残った抜け殻は,分解に抵抗性の高い高分子で構成されており,堆積物や堆積岩中でも保存されています。

 プラシノ藻ファイコーは,その特殊な形態から見分けがつきやすいため,古生界堆積岩中でも産出が多く報告されています。アクリタークの種数が急減するデボン紀最末期のHangenbergイベント以降,渦鞭毛藻シストが多産するジュラ紀までにかけての時代は,「Phytoplankton blackout」ともいわれる微細藻類の多様性が低下した時代であったと推測されています。 

 この時代に堆積した黒色頁岩(Black shale)からは,ファイコーマが多産することが知られており,陸上植物が分布を拡大させた比較的寒冷なこの時代の海洋では,プラシノ藻が主な生産者であった証拠とされています。有名な微化石であるTasmanitesファイコーマの一種とされています。


アクリターク

(Acritarch)

 アクリタークと聞くと古生代や原生代の生物を思い浮かべるかもしれませんが,アクリタークの定義は「パリモルフのうち,起源生物が不明なもの」の総称ですので,アクリタークは堆積岩のみならず,堆積物の表層や水中からもみつかります。近年はDNAの研究が進んではいますが,わけのわからない「殻」の研究はそこまで主流ではありません。とはいえ,過去の堆積物・堆積物岩中には多くのアクリタークが産出されますので,研究をすすめることで,過去の生態系像がより明瞭になると期待しています。

 アクリタークの初出年代は,つまり最古の抵抗性高分子の殻・膜をもった生物の出現時期ということですが,確実なものは古原生代(Paleoproterozoic)と考えられています。その後,アクリタークの種数は,カンブリア紀後期からオルドビス紀にかけて急増,Ordovician末期(O-S境界)の絶滅イベントから減少傾向になり,デボン紀最末期のHangenbergイベントに最終的に激減します。アクリタークは,形態的な特徴から,単純球形のSphaeromorph, 表面に仕切りがあるHerkomorph, つば状の構造(フランジ)があるPteromorph,突起物のあるAcanthomorph,その他にもDiacromorph, Netromorph, Oomorph, Polygonomorph, Prismatomorphといった,大きく9つのタイプに分けることができます。
  それぞれで代表的な「属」(形態のみによるので実際のGenusではない)をあげると,Acanthomorphなら,Baltisphaeridium属は669種,次いでMicrhystridiumが442種,PolygonomorphVeryhachium属で275種 ,HerkomorphCymatiosphaera属で236種,NetromorphLeiofusa属で106種,PteromorphPterospermella属で96種がこれでに記載されています。化石種を含めた同定用に,Acritaxというページがあり,とても便利です。 

 原生界堆積岩からでも多産するSphaeromorphであるLeiosphaeridiaは,初期の真核生物の証拠とされていますが,サイズが異なるものも多く存在し,同一起源でない可能性もあります。ひとくくりにSphaeromorphといっても表面装飾を持つものも多く,その形態は多様です。実際に表層堆積物からもサイズや表面装飾,膜厚,色の異なるSphaeromorphが多く観察されます。多くの場合はこれらは起源が分からないのでまともに扱われません。
 HerkomorphPteromorphの一部 (CymatiosphaeraPterospremella) は,プラシノ藻ファイコーマと類似した形態的特徴をもちます。Acanthomorphは原生代の最後の全球凍結以後に急激に種数が増加したのち,生命史上最大の絶滅イベントであるペルム紀ー三畳紀(P-T)境界前後でも産出し,細々と現生堆積物まで連続的に産出が確認されています。


引用:松岡 數充(1994): 海産パリノモルフ化石とその研究の現状

文責・顕微鏡写真:安藤 卓人

© Takuto Ando
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